東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)25号 判決
一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願考案の登録請求の範囲の記載及び審決の理由の要点)並びに同四のうち1、2の事実は当事者間に争いがない。
二 取消事由に対する判断
1 前記当事者間に争いのない本願考案の登録請求の範囲の記載及び請求の原因四1の事実に成立に争いのない甲第二号証の二(本件出願時の明細書)、第三号証(本件出願に出願変更前の特許願書添附の図面)を総合すれば、ふん尿車の配管構成においては、従来から、ふん尿の吸入作業時における悪臭の大気中への放散を防止するため脱臭器が取り付けられ、また、真空ポンプの回転方向を変えることなく管路内の空気の流れを切り換えることのみによつてタンク内を減圧又は加圧し、ふん尿の吸入、排出の両操作を可能にするための手段として切換弁が用いられており(なお、実際には、ふん尿の吸入作業時、排出作業時及びタンクの大気開放時の三つの切換えを行うことになる。)、本願考案もこのような配管構成に使用される切換弁に関する考案に係るものであること、この分野における従来技術としては、別紙図面第1図のような四方切換弁のみを使用する配管構成のものが一般であつたところ、右の構成のものでは、ふん尿の排出作業時にタンク内を加圧するための空気を脱臭器を介して取り入れることとなるので、脱臭器内の脱臭液が逆流したり、ふん尿の排出性能の低下を来す等の不都合が避けられなかつたため、これを改良し、脱臭器を介さずに管路内に空気を取り入れることができるようにしたものとして、同第3図のような四方切換弁と三方切換弁を併用する構成のものが本願考案の出願前に既に公知のものとなつていたこと、ところが、右のような構成のものにおいても、四方切換弁と三方切換弁を管路内に別個に設置する関係上、「三方切換弁(の)切り換え動作を四方切換弁と対応させなければならないため操作が煩雑であり、しばしば誤動作による故障の原因とな(り)」(本件出願時の明細書五頁六行ないし九行)、「(両切換弁を)連結させ、手動により機械的に連動させたり、油圧、空気、電気的などの他の動力源を用いて連動させたりすることもできるが、前者すなわち機械的連結による場合は、機械効率によるトルク損失が多く、操作に大きな力を要するという欠点があり、後者すなわち他の動力源を利用する場合は、付属装置が高価となり、作動不良を含む要素が多くなり効果的とは云えない」(同一〇頁三行ないし一二行)との欠点が存したことから、本願考案は、このような四方切換弁と三方切換弁を別個に配置する構成に存する欠点の解消を目的として、前記本願考案の登録請求の範囲記載のような構成を採用することによつて両切換弁を一体化し、「操作を簡便にし、更に確実な切り換えが行え」(同五頁一二行ないし一三行)、「二個の切換弁を連動させる方法に比して軸受部が少なく、操作トルクを軽減でき、外部への洩れのおそれもなく、コンパクトであつて、しかも、……作動不良を起こすおそれがない等」(同一〇頁一三行ないし一一頁二行)の特有の作用効果を達成しようとしたものであることが認められる。
2 拒絶理由(1)について
本願考案が、三方切換弁と四方切換弁を一体化した切換弁の構造自体をその要旨とするものであつて、これと配管系の他の構成要素との関連構成の如きをその対象とするものではなく、したがつて、この点に関する限定を求めることが要旨外の事項の限定を求めることに帰することは、被告も認めて争わないところであり、右は前記1に照らしても肯認できるところであるから、拒絶理由(1)の不当なことは明らかというべきである。
3 拒絶理由(2)及び(3)について
前記被告の主張1、2を勘案すれば、審決指摘に係る拒絶理由(2)及び(3)は、具体的には、本願考案においては、拒絶理由(2)に関し、切換弁の各切換え時に、回転子10のポートa1、a2、a3、a4がケース9のポートA1、A2、A3に、回転子10のポートb1がケース9のポート、B1、B2、B3に、それぞれ選択的に連通するように構成されていること(<1>)、拒絶理由(3)に関し、ケース9に設けられた各ポートとの関連で、ポートa1とポートb1とが、ポートa1が同ケース上のA列の特定ポートに選択的に連通するときにポートb1も同ケース上のB列の特定ポートに選択的に連通するような位相関係に構成されていること(<2>)が、いずれもその所期の目的を達成し、また、作用効果を奏するために必須の構成要件であると認められるにもかかわらず、本願考案の登録請求の範囲には右<1>、<2>とも記載されていない点を問題とするものであると解されるところ、前記本願考案の登録請求の範囲には、弁に関する構成として「ケース(9)の外周上にA,Bの二列状に互いに直角をなすポート(A1、A2、A3及びB1、B2、B3)が各々三個ずつ、合計六個設けられていること、前記ケース(9)には回転子(10)が内蔵されていること、この回転子(10)には二つの球面回転部(a、b)があり、このうち球面回転部(a)にはポート(a1、a2、a3、a4)が設けられ、球面回転部(b)にはポート(b1)が設けられていること、前記回転子(10)の球面回転部(a)の四個のポート(a1、a2、a3、a4)は互いに直角をなして設けられ、ポート(a2、a3、a4)は回転部(a)内で連通し合つているが、ポート(a1)とは遮断されており、球面回転部(b)に設けた前記ポート(b1)は前記ポート(a1)とのみ連通していること」が記載されているが、右登録請求の範囲中には、審決指摘のとおり、右<1>、<2>の点がいずれも明記されていない(なお、被告の主張2によれば、被告は、拒絶理由(3)に関し、ポートa1が別紙図面記載のポートA1に、ポートb1が同じく同図面記載のB1に連通する必要がある旨主張しているように解する余地もないではないが、そうであるとすれば、これは、右図面の記載が一実施例に過ぎないことを見落とした論であつて、その不当であることは勿論である。)。しかしながら、前記のように本願考案は四方切換弁と三方切換弁の併用による公知の配管構成に存する欠点の解消のための手段として両切換弁の一体化という構成を採択したのである。そして、両切換弁がいずれも外周上に複数のポートを設けたケースと同ケース内に回転可能に内蔵された回転子からなり、回転子の外周上に複数のポートが設けられた構造であつて、右ケース上のポート群と回転子上のポート群を選択的に連通させることにより流体通路の切換えを行うものであることは当事者間に争いがないところであるから、前記のような構成に係る本願考案の六方切換弁においても、流体の方向を切換えにより誤りなく確保するため、ケース9の外周上の二列状のA(A1、A2、A3)及びB(B1、B2、B3)のポート群と内蔵された回転子の球面回転部(a、b)にそれぞれ設けられたポート群(a1、a2、a3、a4)(b1)が選択的連通関係にあることが、本願考案の当然の前提とされているのであり、右連通関係は配管構成に応じて設定されるべき設計事項に過ぎないものというべきである。
その際、拒絶理由(2)に関し、被告が主張するように回転子のポートがケースのポート以外のいわゆる盲部分に面することのないようにして、同部分からの吸引による真空ポンプ破損等の事態を惹起しないようにすることもまた設計事項に属することというべきである。加えて、拒絶理由(3)に関し、ケース9に設けられた各ポートとの関連でのポートa1とポートb1の関連構成を、最終的にはケース9上のA列の特定のポートをB列の特定のポートに選択的に連通させるべく、回転子10上のポートa1がケース9上のA列の特定のポートに連通するときに回転子10内でポートa1にのみ連通するポートb1がB列の特定のポートに連通するような位相関係に構成する程度のことも、切換弁一体化を目的とする本願考案の実施に際し、当業者が当然に留意すべき自明の設計事項にすぎないものというべきである。
しかるときは、前記<1>、<2>の事項を本願考案の必須要件とみなすことは相当でないというほかなく、したがつて、右各事項が本願考案の必須要件であることを前提とする審決指摘の拒絶理由(2)及び(3)はいずれも不当であるといわざるを得ない。
4 拒絶理由(4)及び(5)について
まず、拒絶理由(4)に関し、前記本願考案の登録請求の範囲の記載並びに前掲甲第二号証の二及び第三号証によれば、本願考案の登録請求の範囲の記載中には一回転子10の二つの球面回転部(a、b)」との記載があり、また、考案の詳細な説明の項には右「球面回転部」を指すものとして「二つの球面(又は筒状)回転部a、bを持つ回転子10」(本件出願時の明細書六頁九行ないし一〇行)又は「球面(又は筒状)回転部」(同七頁三行)との記載があり、更に、図面中には、球面状の回転部に関する図示又は記載は全くなく、円筒状の回転部が図示されているのみであることが認められる。したがつて、拒絶理由が指摘するように、右記載を「円筒状」又は「筒状」なる語を用いて訂正するのが妥当というべきである。その点は暫く措くとして、右登録請求の範囲の記載及び前掲甲第二号証の二により認められる考案の詳細な説明中の各記載に照らせば、登録請求の範囲等に記載された「球面回転部」は、回転子10の一部をなしその軸線を中心にして回転するもので、この場合、「球面」との用語は右回転を許容する面として広義の意味で用いられているものと解すべきであり、また、このことは、その表現に不適切な点があるとしても、当業者が理解するのにさして困難なことではないというべきである。この点に関し、被告は、登録請求の範囲に記載された「球面回転部」との記載を文字どおり「球面状の」回転部として解釈すべきことを前提にして、これが図面の記載等と矛盾するものである旨主張するが、前示したところによれば、「球面回転部」との記載は登録請求の範囲の解釈としても円筒状の回転部をも含むものと解すべきであるから、右被告の主張がその前提を欠くものとして失当であることは明らかである。次に、拒絶理由(5)は、「操定用レバー17」との記載(本件出願時の明細書七頁二行)が「操作用レバー17」の誤記であるとするものであるが、これが右のような趣旨の誤記であること(この点は当事者間に争いがない。)は、その用語自体及び前記本願考案の登録請求の範囲の記載及び前掲甲第二号証によれば、レバー17に関する本願考案の明細書の他の箇所の記載がいずれも「操作用レバー17」と記載されていることが認められるから、当業者にとつても容易に理解し得るところであり、誤記と知りつつこれを訂正しない原告の態度はともかくとしても、右誤記の故をもつて明細書の記載が不備であるとすることができないことはいうまでもない。
5 以上のとおり、拒絶理由(1)ないし(5)についての審決の認定判断はいずれも誤りといわなければならず、右拒絶理由の指摘するところによつては、本願考案の明細書の記載が実用新案法五条三項及び四項の要件を満たしていないということはできないから、審決は違法として取消しを免れない。
三 よつて、原告の本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註その一〕本願考案の実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。
ケース(9)の外周上にA,Bの二列状に互いに直角をなすポート(A1、A2、A3及びB1、B2、B3)が各々三個ずつ、合計六個設けられ、各ポート(A1、A2、A3、B1、B2、B3)には前記ケース(9)に内蔵される回転子(10)に密接して、この回転子(10)の二つの球面回転部(a、b)のうち球面回転部(a)に設けたポート(a1、a2、a3、a4)及び球面回転部(b)に設けたポート(b1)との間の機密を保つ封隙手段(11)とこの封隙手段(11)を固定する固定金具(12)とが設けられており、前記ケース(9)に取り付けられたキヤツプ(13)を貫通して外部へ突出される回転子(10)の先端部(10b)には操作用レバー(17)が取り付けられ、前記回転子(10)の球面回転部(a)の四個のポート(a1、a2、a3、a4)は互いに直角をなして設けられ、ポート(a2、a3、a4)は回転部(a)内で連通し合つているが、ポート(a1)とは遮断されており、球面回転部(b)に設けた前記ポート(b1)は前記ポート(a1)とのみ連通してなるふん尿車における六方切換弁。(別紙図面第4図ないし第7図参照)
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
別紙
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(以下省略)